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interview編集者
吉岡綾乃氏

妥協のないレビューを是としており、かつて自作派からの厚い支持を集めた DOS/V magazine で、主にキーボードを担当していたのが吉岡綾乃さんだ。のちに様々なオンラインメディアで重要なポストを歴任する彼女に、往年の名品を含む100本以上のキーボードを所有していた中から Realforce を選んだ理由などを伺った。

編集者としてのキャリア

吉岡さんのお仕事について教えてもらえますか。

吉岡氏

ダイヤモンド社で『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・オンライン』『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』などの媒体に掲載する、記事体広告を制作する部署の部長をしています。いわゆる「タイアップ記事」や「PR 記事」と呼ばれるものですね。クライアント企業のリクエストを受けて、その企業が PR したい内容について取材し、ライターやカメラマンと一緒に記事をつくるという仕事です。
企業が訴求したいことをしっかり盛り込みつつ、読者が読んで面白い記事をつくるというのは、なかなか難しくて奥が深いです。

今の立場になられるまでどのような形でキャリアを進めて来られたのでしょうか?

吉岡氏

新卒でソフトバンクに入社しました。今は通信会社のイメージが強いと思いますが、当時はパッケージソフトウェア卸(おろし)と、パソコン専門書・雑誌の出版がソフトバンクの事業の二本柱でした。私は出版部門に入って、今はもう無いのですが、『DOS/V magazine』というパソコン雑誌の編集部に配属され、そこで編集者として働きはじめました。

『DOS/V magazine』といえば、パソコン誌の中でも、コア層に向けた雑誌だった印象が強いです。

吉岡氏

そうです(笑) 私がいた頃は、パソコン総合誌というか、Windows パソコンを自作する人向けのハードウェア情報誌という立ち位置の雑誌でしたね。

まずそこがスタートだったと。

吉岡氏

はい。基本的にはライターさんが書いてくれた原稿を編集するのですが、編集者が自分で原稿を書くページもありました。編集者もみんなパソコンが好きでパーツにも詳しいので、毎月、秋葉原などで買ったパソコンパーツを紹介するという連載があって、そこで私はほぼ毎回キーボードを紹介していたんです。そのうちキーボードの特集も任せてもらえるようになって……気がついたら、キーボードの記事ばかり書いている、キーボード大好きな編集者になっていました。

深淵の DOS/V magazine 編集部

パソコンは入社前から使用されていたのでしょうか?

吉岡氏

小学生の頃におもちゃみたいなパソコンを買ってもらい、プログラミングの真似事みたいなことはしていたのですが、そこからブランクがあって。大学院やサークルの事務作業の手伝いなどで少し使っていたくらいで、まあ普通です。自作をしたことはもちろんなかったですね。

というと、自作させられたんですね。

吉岡氏

そうなんです。『DOS/V magazine』の編集部はパソコンが自作できないと生きていけないところなので。当時は組んではバラし、組んではバラしをしていました。

そのエピソードだけでもディープさが伺えますね。

吉岡氏

元々パソコンのパーツを詳しくレビューしたり、テストしたりする雑誌で、競合製品を集めてのクロスレビューなどもガッツリやる媒体です。そういうパソコンパーツの特集がいくつもある中で、ときどき「今度キーボードの特集やるけど、担当は吉岡でいいよな?」とキーボード特集を任せてもらっていました。回を重ねるうちにどんどんマニアックな内容になっていって、「読者さんもよく読んでくれるなぁ、ありがたいなあ」と思いながら作っていました。

メーカーの担当の方が困るくらいマニアックなレビュー項目まであった、と伺っていますが実際にそうだったんですか?

吉岡氏

確かに、相当マニアックなレビューやテストをしましたし、普通の人は知らないだろう専門用語が飛び交う記事を作っていましたね。メーカーさんにはとても迷惑をお掛けして……あの時は本当にすみませんでした(笑)

世紀をまたいで尚、忘れられないキーボードが存在する理由

なるほど(笑) ところで、数あるパソコンのパーツや周辺機器のなかで、吉岡さんがキーボードに興味を持たれた理由はどこにあったのでしょうか?

吉岡氏

キーボードって、すごく不思議なパーツなんです。
当たり前ですけど、普通、パソコンのパーツというのは新しいものほど良いんですよ。CPU やグラフィックスボードだったら処理は新しい方が速いし、メモリやストレージなら速度は速く、容量は大きくなる。ディスプレイも、どんどんサイズが大きく精細になってきています。新しいものほど性能が良いので、古いものは型落ちして値段が下がり、どんどん価値が無くなってしまうじゃないですか。

ところが、ほぼ唯一の例外がキーボードなんです。技術が進むにつれて、製造コストを抑えて安く作れるようになっていった結果、いま安く買える新しいものは、安いけど品質がイマイチなものが多いのです。またパソコンメーカーにとっては、コストカットの対象にされやすいので、最新のメーカー製パソコンを購入しても、キーボードはペナペナの安物であることがほとんど。キーボードに関しては、一般的に新しいものよりも古いもののほうが、つくりがしっかりしており、出来がいいことが多い。

“名品”と呼ばれるキーボードの中には、もう生産していない、ヴィンテージみたいなものがたくさんあります。一度いいキーボードを買えば、何年経っても価値を失うことなく使い続けられ、「古くて良いもの」がたくさんある、そんなパソコンパーツはキーボードくらいだと思います。キーボードって本当に不思議で、だから私にとってはすごく面白かったんですよね。

確かにそう聞くと不思議ですね。

右側:オフィスで使用中の2001年発売 初代 Realforce 106
左側:自宅で使用中の現行モデル Realforce R2-JPV-IV

吉岡氏

これは私が会社で使っている Realforce ですけれど、初代だから2001年に買ったもののはずです。

他にも持っていますが、なんだかんだでこれをずっと使っています。壊れたことは一度もないし、キートップの印字が消えることもなく、快適に使えています。接続方式はまだ PS/2(接続コネクタの昔の規格)なので、今は変換コネクタで USB に変換してつないでいます。そんな20年前のものがまだ使えるというのは、パソコンパーツとしてはすごく画期的なことだと思うんです。

確かに画期的ですね! 新型 R2 モデルの発売時に、旧モデルの買い置き需要があったのも記憶に新しいです。このようなことは以前からあったのでしょうか?

吉岡氏

そうですね。キーボードというのは、写真で見て、デザインや見た目があまり変わっていないように見えても、実際に使ってみると前のモデルとはタッチが変わっていたり、チューニングが変わっていたりということがあります。なので、「これが好き、ピッタリくる」と思うものがあったら、多めに買っておいて長く使った方がいいですよ。

なぜ Realforce

初期モデルだと、20年くらい長く使って頂いていると思いますが、現在でも Realforce をお使いの理由は?

吉岡氏

『DOS/V magazine』編集部にいた頃は、キーボードのコレクターみたいになっていて、当時100本以上キーボードを持っていました。
ですが、グループ内でアイティメディアへ異動することになり、しかもプライベートでも引っ越すことになりまして。「Web 媒体の編集記者になったら働き方が変わるし、異動先にも引越先にも、そんなにキーボードを持って行けない。減らさなくちゃ」と一念発起。コレクションの中から厳選して、約10本まで減らしました。

なるほど……。

吉岡氏

10本まで減らしたキーボードは全部ボックスに入れて、いったん封印しました。
雑誌の編集者は自分の席にいる時間も多いのでデスクトップパソコンでいいのですが、Web 媒体の編集者・記者はノートパソコンを毎日持ち歩いて、会社や外出先、家など色んな場所で記事を書き、編集し、アップします。そういう生活になったので、デスクトップパソコン用のフルキーボードから一旦離れたんです。

ではどうして Realforce が復活したのでしょうか?

吉岡氏

転職がきっかけでした。長く勤めたアイティメディアを辞めて、プレジデント社に Web メディア担当として入りました。今働いているダイヤモンド社も同じなのですが、伝統的な出版社だからなのか、会社で支給されたのが、ノートじゃなくてデスクトップパソコンだったんです。付いてきた付属のキーボードが、安物というか、まぁ使い勝手が悪いもので……。「もう少し気持ち良くパソコンを使いたい」と思って Realforce を久々に取り出してきた、というところですね。

10本の中から Realforce を選ばれた理由は?

吉岡氏

その10本は、しまい込んだ当時私のお気に入りだったものですし、いまでも価値があるキーボードが多いです。最初は、Unicomp の「SpaceSaver」を会社に持っていって使ってみたのですが、これは昔ながらのメカニカルキーボードで、打っていて楽しい気持ちになってくる半面、キータッチが重く、一日中叩いているとちょっと手が疲れてしまうんですね。ガチャガチャとにぎやかな音も鳴りますし。打っている本人は非常に気持ち良いのですが、いまどきの会社で日常的に使うにはうるさくて、周りに迷惑かなと。

「Kinesis Advantage」という、左右のキーが分離していてお椀のような形のキーボードも持っていってみたんですが、見るからに変わったキーボードを使っているとオフィスでは目立ってしまってちょっと恥ずかしい。キーの数が少なくてコンパクトな「Happy Hacking Keyboard」も持っているけれど、私は ATOK ユーザーで、ファンクションキーを F1 から F10 までフルに使うので、Realforce を使用しています。

あとは世の中も変わって、SNS をよく使うし、メールですらもう遅くなってチャットやメッセンジャーが主流になり、1日でキーボードを打つ回数が以前よりも格段に増えています。なので、軽い力で楽に打てるものがいいなと思いました。打鍵音が静かで、オーソドックスなキー配列で、キータッチがいいものとなると……「Realforce 一択でしょ!」という結論になり、久しぶりに Realforce を使う生活に戻りました。

“イマ”の仕事に対するこだわり方

確かに入力頻度は昔と比べると格段に上がったかもしれません。世の中が変わったといえば、新型コロナウィルス感染症によってどうしても変化を求められていますよね。吉岡さん自身に変わったところはありますか?

吉岡氏

在宅勤務が増えたので、家の作業環境を整えました。それまで自宅では、いつも持ち歩いているノートパソコンでそのまま仕事をしていたんですが、コロナで在宅で座って作業をする時間が増えたので、やっぱり家でもキーボードをつなぎたいなと思い、自宅では「Realforce R2-JPV-IV」を使っています。

会社とご自宅で Realforce を使い分けられている理由はありますか?

吉岡さんのご自宅の PC 環境。普段から使っているノート PC(ThinkPad X1 Yoga)にキーボードとマウスを外付けでつないでいるほか、オンライン会議用に USB 接続のデスクライトを使っている。

吉岡氏

キーボードまで持ち歩くと重いので。使っているときは重い分安定していて良いのですが。キーボードとマウスは会社と自宅に2セット置いておき、ノートパソコンだけ持ち歩いています。

なるほど。他にお仕事の道具でこだわられているものはありますか?

吉岡氏

ノートパソコンですかね。パソコンは多少高くてもハイスペックなものを買っています。ノートパソコンもキーボードが良いものが好きですけど、キーボードにこだわると薄型・軽量のモデルは選びづらくなるんですよね。もちろん、性能も大事。基本的には、処理スピード・キーボードの打鍵感・重量のバランスが良いものを選んでいます。

編集者の方って、そもそもキーボードに向き合う時間が長いイメージがありますが、より増えましたか?

吉岡氏

原稿を編集している作業時間は変わらないのですが、キーボードを打つ量は本当に増えました。在宅になって、「あの件はどうなってるの」「これはちゃんと進んでる?」といったやりとりは、1日中メールかチャットです。コミュニケーションのためにキーを打つ時間がずいぶん増えたなという実感はあります。

かなりヘビーに使って頂いているみたいですけど、ご不満なところはいかがでしょう?

吉岡氏

不満はないです。ノートパソコンでもキーボードを重視して選んでいると言いましたけど、Realforce を家でも使うようになって、さらに快適です。

ちなみにですが、初めて Realforce を購入されたきっかけは覚えていらっしゃいますか?

吉岡氏

昔はキーボード関連のニュース全てに目を配っていたので……新しいものや珍しいものが出ると大抵買っていましたから、当然 Realforce も発売直後に買いました。

なるほど……(笑)

吉岡氏

ニュース性としては、キー配列が変わっているとか、デザイン性が高いとか、キーが光るとか、見た目に分かりやすい特徴があるキーボードの方がどうしても話題になりやすいんです。でも Realforce は"見た目は超普通なのに、触ってみるとめちゃくちゃ良いキーボード”というのが個人的に刺さりました。触ったことがある人しか、良さが分からない。「一見普通なのに、触るとすごいのよ!」っていうのが良いなと今でも思っています。

記者・編集者というと道具にもこだわられているイメージもありますが実際周りの方はいかがでしょうか?

吉岡氏

ほとんどの皆さんは、会社支給のパソコンに付属のものをそのまま使っています。あんまり言うとうるさがられそうですが、この機会なので強くオススメしたいですね。「キーボードとマウスにはお金をかけろ!」と、声を大にして言いたい。日々の作業効率が本当に違いますし、疲れにくくなるので、キーボードやマウスはケチっちゃいけません。特に、文字をたくさん打つ仕事の方はキーボードに投資してほしい。

もし吉岡さんの周りでキーボードに興味を持ってくださる方がいたら、Realforce のどんなところを推していただけますか?

吉岡氏

疲れにくさですね。たくさんキーを打っても疲れないのは大きいですよ。本当に1日中キーボードを打っているので。測ってみたことがあるんですが、私の場合、月に11万文字くらい打っているようなんです。ローマ字入力だから、キーを打っている回数としては約22万回。

あとは、ミスタイプが確実に減ります。出来の悪いキーボードだと、キーを打ったのに反映されていないとか、逆に1回押しただけなのに同じ文字が複数回入力される、同時に2〜3個のキーを押した時に、一つしか入力されていない……といったことが起こりやすいんです。でも、Realforce はそういうことが本当に起こらない。

確かにパソコンに付属のキーボードだと感じることが多いですよね。

吉岡氏

私の指の方が正確なはずなんだけど……というのが結構あるわけですよ。入力で間違っていないのに、結果としてミスタイプになっている。それを直すのは効率が悪いし、単純に仕事が増えてイヤですよね(笑) こういう不要な打ち損じを無くす意味でも、キーボードを打つことが多い人は、良いキーボードを使った方がいいと思います。

Realforce の打ち心地についてはいかがですか?

吉岡氏

スイッチの特性によるものですが、押し込んだ時のスコンッという独特の感覚が好きです。軽く押しているだけなのに、確実に押した感触が指にフィードバックされる。昔はもっとキーが重くて押しごたえのあるものが好みだったので、最初は物足りないかなとも思いました。でも日々使っていると、やっぱりこれがいいんですよね。店頭などでちょっと触っただけだと分かりにくいですが、長時間使ってみると良さが分かると思います。

あと、Realforce は、キーの重さを選べるじゃないですか。キー入力が非常に正確な人や、ものすごく入力回数が多い人は、キーの軽さにこだわって 30g モデルを選んでもいいと思います。軽いのは慣れていない人が使うとしばらくはミスタイプが増えるので、万人には勧められないのですが……。逆に一番重い 55g モデルも、実際に打ってみるとそんなに重くないです。特に Happy Hacking Keyboard あたりが好きな方は、Realforce の 55g はしっくりくる打ち心地だと思いますよ。ちょっと打鍵感が似ている気がします。

ちなみに、今、お使いのモデルのキー荷重は何gのものをお使いですか?

吉岡氏

会社で使っている初代 Realforce はたしか変荷重だったと思います。

自宅用の R2 モデルも同じ変荷重ですか?

吉岡氏

はい、そこはオーソドックスに 30/45/55g の変荷重モデルを選びました。初めて Realforce を買う人にどれか勧めるなら、変荷重モデルがいいかなと思います。力が強い指で押すキーは重く、そうでないキーは軽いものが使われているので、おそらくほとんどの方はキーの重さが違うことに気付かず、単純に「打ちやすいな」と思うはずです。

ありがとうございます。最後に改めて、これから Realforce を買おうかどうか、キーボードについて悩んでいる方に向けてメッセージをいただけますか?

吉岡氏

在宅勤務で家庭でもパソコンを使う時間が増えているので、1日仕事して「疲れたなあ」と思う場合、パソコン・キーボード由来のものも増えているのではないでしょうか。なので、キーボードが軽く打てるとか、ミスなく打てるようになれば、疲れが軽減できて仕事の効率も上がるかもしれない。肩こりや腕の痛みといったつらさが軽減されるかもしれない。

「かもしれない」って言っていますけど、私は間違いなくそうだと思っています(笑) ノートパソコンでも、キーボードを外付けすることはできます。キーボードを変えると気分も変わるので、普段と違う環境にしてみるだけでも気分転換になりますよ。

疲れを軽減するだけでなく、パソコンで文字を打つことそのものが楽しくなるのが、Realforce のすごいところです。「キーを打つ楽しさ、気持ちよさ」を体験させてくれるキーボードって、普通はなかなか出会えないと思いますから。「キーボードなんて、どれを使っても一緒でしょ?」と思う人こそ、Realforce を試してみて欲しいなと思います。

文=鈴木康太 写真=志田彩香