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interview早稲田大学
ビジネススクール教授
杉浦正和氏

早稲田大学ビジネススクールの「人材ゼミ 」は「ひと」や「組織」の観点からマネジメントやディベロップメントを学ぶコースだ。担当する杉浦正和教授は、2020年1月に上梓した『幸運学』の中で、Realforce のキーボードを紹介している。ビジネススクールの教授がなぜ「幸運」について書くことになったのか、キーボードはどう関係するのか、氏のキャリアの変遷と共に詳しく伺った。

ビジネススクールと幸運の関係

杉浦先生は早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)の教授でいらっしゃいます。現在のお仕事内容を教えていただけますか。

杉浦氏

ビジネススクールというのは、経営大学院といわれる学校で、日本では一般的には3年以上の実務経験を持つ、平均年齢35歳くらいの社会人を対象にしています。私は早稲田の実務家教員という立場で、仕事をしながら学ぶ方向けの夜間や土曜日のコースを担当しています。その他に、学会活動や学内の研究所の所長なども務めております。

実務家教員というのは、一般の教員とは違うのですか?

杉浦氏

大学教員には、博士課程を経てずっと研究を続けている研究者教員と、実務経験のある実務家教員がいます。私は実務経験を22年積んだ後、教員になりました。人材・組織分野の授業とゼミを運営しており、授業を担当してからは17年、卒業生は160人を超えます。私のゼミは参加型で、授業や企業研修でも皆に参加してもらって、人材や組織の話をしています。

国立音楽大学の理事でもいらっしゃいますね。

杉浦氏

こちらは教員ではなく、大学のマネジメントを行なっています。

本日は九州のリモートオフィスで取材を受けていただいているのですが、東京と九州の2拠点で活動されているのですね。

杉浦氏

そうです。今年に限っては特別研究期間(サバティカル)で、早稲田大学の授業は免除されているので、九州がメインです。用事があるときだけ、東京に出張しています。

昨年1月に『幸運学』という本を出版されました。ビジネススクールの教授と、「幸運」というのは少しそぐわない感じがします。

幸運学 ─不確実な世界を賢明に進む「今、ここ」の人生の選び方─
本書では、運を4つに分類し、自分でコントロールできる「機会」と「確率」について取り上げている。
『幸運学』購入ページへ 

杉浦氏

Wikipedia で「運」を調べると、「自分の力ではどうしようもないもの」というようなことが書いてあるのですが、本当にそうだろうかと思ったんです。自分でコントロールできる運もあるのではないかと、分類して考えてみました。コントロールできないのが「宿命」と「偶然」、できるのが「機会」と「確率」です。この本では、自分でコントロールできる運について書いています。機会を増やし、確率を上げることで運が良くなる。野球に例えると、バッターボックスに立つ回数を増やすこと、立った時の打率を上げることという話です。

「機会」と「確率」はビジネスにおける「開発」と「管理」に相当するということですね。この本の中で、Realforce のキーボードについても書かれています。

杉浦氏

この本は教科書ではないので、自分の色を出してくださいと編集者に言われたんです。そこで全くプライベートな話を書くコラムを何本か入れたのですが、その1つ「道具には必要な投資をする」の中で Realforce のキーボードを紹介させていただきました。これを読んだゼミ生が、もう何人か買いましたよ(笑)。
他のキーボードと比べて、打鍵感が全然違いますよね。打つのが楽しくなります。本や論文を書くのには絶対必要です。

自動車メーカーから音大への道

キーボードについて詳しくお聞きする前に、現職に至るまでの経緯を教えてください。最初に就職されたのは自動車メーカーですね。

杉浦氏

大学卒業後、日産自動車に就職しました。その後1988年から1990年、日本ではバブルの時代にアメリカ、シリコンバレーのスタンフォード大学へ MBA 取得のために留学します。

日本の大学とは違う刺激を受けられたのでしょうか。

杉浦氏

もちろん。日本では自分が就職した会社というものを、内装を見るように中から見ます。アメリカのビジネススクールでは、いろいろな会社を横に並べて、俯瞰で見て比較するわけです。言ってみれば上から目線で、生意気な見方です。
それから、海外でビジネススクールに行くような人たちは、自分が経営者になるのが当然だと考えています。日本の企業研修で経営者の候補生を育てるトレーニングを行うことがあるのですが、日本人は控えめで「いやいや、社長になりたいなんて思っていません」と言うんですよね。でも向こうの連中は、経営者になってどうやって会社を良くしていくかとか、自分で会社をつくってどうやって大きくしていくかを考えているんです。
ちなみに、同級生にゼネラルモーターズ初の女性社長、メアリー・バーラ氏がいます。機会があれば、東プレ社を売り込んでいきたいと思います(笑)。

スケールが大きいですね。他に当時のエピソードはありますか。

杉浦氏

後にスティーブ・ジョブズ氏と結婚する、ローレン・パウエル氏が1年下にいました。2人が出会うきっかけになったスタンフォードでのジョブズ氏の講演は、私も聴きましたよ。
それから、ヒューレッド・パッカード社のデビッド・パッカードさんが、勉強会のために家を貸してくれたことがあります。山1つ全部パッカード家の敷地みたいなところで、私たちが勉強会で使ったのは、日本の一戸建てぐらいの住宅だったんですけど、あとから聞くとパッカードさんが飼い犬のために用意した家だったんですね。そういう、とんでもない世界を見せてもらいました(笑)。

そういう世界からまだ終身雇用が一般的だった日本に帰ってきて、何社か転職されています。アメリカでの経験と関係あるのでしょうか。

杉浦氏

“A rolling stone gathers no moss.”(転石苔むさず)という言葉がありますが、日本とアメリカでは意味が違います。日本では「石の上にも三年」という言葉もありますし、動かずに苔が生えるのはいいことです。でもアメリカでは悪いことなんですね。だから、「ちゃんと転がっていれば苔むさずに済む」という意味になります(※)。もう人生の見方が全然違うんです。

(※ ただしイギリスでは、日本と同様に仕事や住まいをよく変える人は成功しないという解釈もある。)

先生は苔むさないよう、常に転がり続けたわけですね。

半分だけ新しいことに挑戦するコンパスターンを繰り返して、自動車メーカーから音大へキャリアが繋がった。

杉浦氏

やみくもに転がったわけではなく、それまでの実績を活かす「コンパスターン」をしてきました。コンパスターンというのは私の造語ですが、軸足は動かさず、もう片方の足だけ回します。私のキャリアのコンパスターンを説明すると、最初は自動車メーカーの戦略部門だったので、「戦略」を軸にして戦略コンサルティングの会社(ベイン・アンド・カンパニー)に行きました。その次は「コンサルティング」を軸に「人事コンサルティング」(マーサー)へ移ります。それから「人事」を軸に外資系金融機関(シティバンク)の人事へ行って、リーダーシップ開発などの仕事に携わりました。結果的に戦略も人事も企業も「わかっている人」になったので、大学で教えることになりましたから、それも繋がっているんですね。さらに「大学」繋がりで音大のマネジメントもやっています。自動車メーカーと音大というと、すごく遠いように見えますから「何をしたらこんなことになっちゃったの?」と聞かれるんですけど(笑)。でも、各過程で半分は前職と同じことをしながら半分は新しいことに取り組む、コンパスターンを繰り返してきた結果です。

すべてが繋がっているのですね。

杉浦氏

そうなんです。そして、私のキャリアの大元というのは、実は中学校の吹奏楽部です。全国大会に50回近く出ている強豪校で、私も1年生から3年生までずっと全国大会に出場しています。私が特別に上手だったわけではなくて、たまたま育ったところに、そういう中学校があったんですね。公立中学校ですから、少し住所が違って隣の中学校だったら、行けなかったわけです。個々人を見れば、隣の中学校の子の方が上手だった可能性もありますが、全国大会には出られなかった。そこで私は、個人の力を超えた組織の力があることに気づきました。
こういう場合、リーダーつまり指揮者の力だろうと言われることも多いのですが、指揮者が何人代わっても、ずっと勝っているんですよね。伝統の力とは何だろうと疑問を持ったのが、私にとって組織や経営を考える原点になっています。

今現在音大のマネジメントをされていることとも繋がっていますね。

杉浦氏

原点に帰ってきたという感じです。音楽を諦めて違う仕事に就いた当時の仲間からは「何でお前が音大に」と言われます(笑)。
吹奏楽部の前には3歳から習っていたピアノがあります。つまりキーボードですよね。私は Realforce のキーボードは楽器だと思っています。例えばトランペットのピストンと同じで、プレイヤーにとっては命です。

Realforce は体の一部

パソコンのキーボードを、最初に意識したのはいつ頃ですか。

杉浦氏

スタンフォードにいた当時の一番人気は IBM の PC AT 機だったのですが、そのキーボードの「カタカタカタ」という打鍵感がとても良くて、それは今でも覚えています。

「打鍵感」が重要なんですね。

杉浦氏

そうです。パソコンを小型軽量化するために、付属キーボードのストロークもどんどん浅くなっていきました。今はもう触るだけみたいなものもあって、打鍵感もありません。でも私はもう少し機械的でストロークが深いものが好きです。
この感覚というのはピアノと共通するものだと思うんです。音大でピアノの先生と話す機会があるのですが、良いピアノというのは、自ら弾かせてくれるそうですよ。Realforce もそれと似ていて、キーボードに手を置くと、文字が出てくるんです。打鍵そのものが気持ちいいからですね。

仕事がはかどると言われていた理由ですね。ところで、最初に Realforce を使いはじめたのはいつ頃ですか。

杉浦氏

6〜7年前、中古品で買って試したのが最初だと思います。それが素晴らしかったので、新しいものを買いました。今は、パソコン2台にそれぞれ繋いでいるので、白と黒の2つを使っています。パソコンを同時に動かしているときに、どちらのものか混乱しないように、色違いにしているんです。それから、東京の方にも1台ありますよ。

現在利用している Realforce 4台をご自宅のお庭に並べて。

最初に Realforce を試してみようと思われたきっかけは何だったのですか。

杉浦氏

本を書くときに気合を入れようと、良いキーボードを調べて探したと記憶しています。物を書く人間にとって、キーボードというのは体の一部ですからね。もう1つ、私は自動車部品メーカーというものを完全に信頼しているんです。命を乗せて走る車を支える部品ですから、とんでもなく高品質なんですよ。日産自動車での勤務や、トラック会社のコンサルティングなどを経験していますから、業界の者としてそれを知っています。東プレさんの部品を見ることもありましたから、ブランドとしてとても信頼していました。

とはいえ、他のキーボードも試されたんですよね。

杉浦氏

もちろん。これだけしか使わずにこれがベストだと言うことはできないので、HHKB(Happy Hacking Keyboard)など、世間で良いと言われているものはひととおり試しました。ただ私は英語を入力することも多いので、半角/全角キーをすごく使うんです。だから、このキーの位置が違ったり、英字への切り替えに他のキー操作が必要になるものは選択肢から外しました。
それから赤軸、青軸のメカニカルキーボードも持っていますが、さすがに音が大きすぎます。Realforce はちょうどいい音なんです。結論は、私には Realforce ですね。

使っていらっしゃるのは、すべてテンキーレスということですが、理由はあるのですか。

杉浦氏

私は体の正面にキーボードを置いて使いたいんです。テンキーがあると、手をホームポジションに乗せたときに、左に寄るじゃないですか。だからテンキーレスにしています。
希望としては、キーピッチは今の19mmのままで、矢印キーの部分をなくした、もう少し小さいものがあるといいですね。「どこでも君と一緒だよ」と持ち歩きたいのですが、今のサイズだとカバンに入らないんです(笑)。

プロは仕事道具に妥協しない

1度 Realforce を使うと他のキーボードには戻れないわけですね。

杉浦氏

そうなると思います。私がこの『幸運学』で紹介したことで買った人が、何人もいるんですけど、皆さん「もう戻れませんね」と言っています。Amazon のレビューを見ても、良い評価ばかりですよね。唯一悪く書かれるとしたら価格が高いということぐらい。

先生は価格に見合ったものだという認識ですよね。

杉浦氏

そういうことです。私が今いるリモートオフィスは、古い民家をリノベーションして使っているのですが、作業している大工さんは、やはり良い道具を使っていらっしゃいます。良い仕事ができるだけではなく、怪我もしにくいですよね。それと同じで、文字を打つことを仕事にしている人が、2〜3万円を高いと判断するかですよね。そこは妥協したらいかんでしょうというのが私の意見です。それは、本でかなり強く書きました。
実際、Realforce に投資して、本を書けたんですからね。

『幸運学』でも触れられていますが、先生は持ち物や車など、「ラッキーカラー」のターコイズブルーを選ばれることが多いようです。キーボードはいかがですか。

Realforce にはオプションでカラーキーキャップセットが用意されている。キートップだけ「ラッキーカラー」に変更するのも一手!?

杉浦氏

持っていますよ(笑)。色だけで選んだのですが、軽くて無線なので持ち運びに便利ですし、いい部分もあります。ただ、自分のスタンダードが Realforce になっているので、日常的に使い続けるのは無理ですね。言ってみれば、高級なピアノと安価なキーボード楽器ぐらい差があります。キーボードはやはり色だけじゃないんだということを痛感しています。

キーボード以外にも妥協できない道具はありますか。

杉浦氏

今は授業や研修の半分くらいはリモートでの登壇になっています。自分は教えることのプロですから、部屋ごとつくったこのオフィスをはじめ、リモート環境への投資はものすごくしました。
2020年の4月にはリモートでの授業が始まるということだったので、2月に大慌てで環境を整えはじめていました。私は対応が早かったので、依頼される企業研修もどんどん増えましたね。

環境を整えるにあたっては、やはりいろいろ試されたんですよね。

杉浦氏

いろいろです。マイクだって10本じゃきかないですからね。今の時代、経営者も教養が大事ですから、教養教育(リベラルアーツ)が増えています。その研修で、先ほど話をしたピアノの先生とクラリネット奏者である国立音大の学長にドビュッシーを演奏してもらいながら、私が解説するというような動画を配信しています。演奏をきちんと聴かせるために、この1年で良いマイクやミキサーもたくさん買いました。

授業では板書のような形で、ペンタブレットも使われていました。

杉浦教授のご自宅のデスク環境。

杉浦氏

パワーポイント資料の上にペンタブで手書きして解説していたのですが、最近はカメラを切り替えて、紙に文字を書いているところを映すという手法の方をよく使います。分かりやすいと好評だったのと、ホワイトボードと違って消さないので、記録として残るのも便利です。
このとき、カメラもいろいろ試したのですが、面白いことに一番安いのが一番いいんですね。高いカメラはオートフォーカスなので、手を動かすと追従しようとしてブレてしまうんですけど、安いカメラは固定焦点なのでずっと文字に焦点が合っています。
いろいろな機材を試したけど、結局、浮気せず今も使っているのは Realforce キーボードのみです。

良いキーボードで運を良くする

それなりの投資をしてリモートオフィスを整えられたわけですが、コロナ禍収束後も活用できそうですか。

杉浦氏

この1年間で、「face to face」と「オンライン」それぞれの長所と短所を、皆が分かってきたと思います。だから多分、全面的にどちらかになるのではなく、いいとこ取りになるんじゃないでしょうか。例えば海外とのミーティングは、オンラインの方がコスト削減になります。一方、会うことに意味があるクリエイティブな事案もあると思います。
私の場合は、大学の仕事以外の企業研修は、オンラインのみにする予定です。自分のいる場所に縛られない自由を得てしまったので、これはもう手放さないと思いますね。

やむを得ず変化した状況ですが、前向きに捉えてそれを活かすということですね。

杉浦氏

日本ではピンチがチャンスだと言いますが、英語では Change is Chance なんです。
変化があったときに、どうチャンスにしていくか、事をどうスムーズに運ぶかということが重要です。一方、変わらないものについては、オペレーションを効率化して運びを良くする。両面で、物事の運びを良くしていくことが、運を良くすることになっていくのではないかと思います。「運(うん)」と「運(はこ)ぶ」が同じ字なのは、偶然ではありません。
指の運び(運指)を軽快にしてくれる Realforce のキーボードが、運の良さの原点ということですね(笑)

文=伴雅子